第一話
空中に浮かぶスタジアム。
そこでは、歓声が渦巻いていた。
『空中スタジアム』…今まさに、『乱闘』が行われようとしている場所だ。
「ねぇゼルダちゃん、今日はどっちが勝つのかしらね?」
そう話すのは、桃色の豪華なドレスを着、金色の長い髪を持ち、頭には王冠を乗せている女性。
その身なりからして、王族のようだった。
「どうなんでしょう?ピーチさんはどっちだと思います?」
ゼルダ、と呼ばれた女性はそう言う。
少し質素な感じではあるものの、肩当ては黄金で、ドレスも普通ではない。やはり王族のようだった。
髪は長く、栗色をしていた。
「あらあらぁ、それはマリオに決まってるでしょう!私を何度も救っているもの!」
ピーチ、と呼ばれた女性は、途端にご機嫌になる。
そのまま自分の世界へ浸っていった。
「…ピーチさん…もう始まりますよ…」
と、呆れ顔になった自分の顔を正面に戻した。
ピーチも自分の世界から戻ってきて、ゼルダと同様に顔を正面へ向けた。
そして何の合図か、二人は一斉に空を仰いだ。
少し広めのステージに、一つのフィギュアが投げ込まれる。
フィギュアといえど、まるで石のようだった。
そのフィギュアは帽子を被っているようで、オーバーオールを着ていた。
今投げ込まれたフィギュアの向かいに、もう一つフィギュアが投げ込まれた。
それはまるで、球体のようだった。
二つのフィギュアは光に包まれ、スタジアム全体を光でいっぱいにする。
光が消えた頃、フィギュアは無くなっており、その代わりに二人の人物がそこに立っていた。
その二人はフィギュアとよく似ていた…いや、フィギュアそのものだった。
一人は「M」というワッペンの付いた赤い帽子を被り、デニム生地のオーバーオールを着ている。
そしてもう一人は、人ではなく、球体そのものと言っていいほど丸い。
身体は桃色で、足だけは赤色だった。
特徴あるヒゲが目立つ、赤の帽子を被った人物…『マリオ』。
桃色で全体的に可愛げのある、丸みのある生物…『カービィ』。
その二人が、ステージの上で対峙した。
「さて、今日も…」
「やるとしようか!」
二人は自分の相手に向かって、勢いよく飛び出した。
その頃。
空中スタジアムよりもずっと高くにある、雲の上の世界…天空界。
そこに、「彼」は居た。
「そこだ!いっけぇ!!」
彼は水面に映る、下界のスタジアムの様子を見ていた。
一人乱闘を見て盛り上がる彼の動きに合わせて、時たま背中の翼が動いたりしている。
茶髪で、少しぼさっとしている髪。
サンダルに類似したブーツを履いており、何よりも目立つのは、背に生やした翼だった。
彼…いや、この少年は、人間ではない。『天使』だ。
この少年の名は…『ピット』。
ピットはスタジアムで繰り広げられている乱闘から、目を離すことは無かった。
天使が天空から見ていることなど知るはずも無く、マリオとカービィは乱闘を繰り広げていた。
「これでも食らえっ!」
マリオはカービィに手を突き出し、手のひらから爆発するように炎を出した。
『ファイア掌底』だ。
カービィはそれを跳びながらひらりとかわし、軽々と着地する。
「こっちも行くよ!」
どこから出したのか、ハンマーを手にしたカービィは、素早くマリオの懐へ潜り込む。
「そおれっ!」
と、そのままハンマーを勢いよく振り回す。
ハンマーをまともに受けたマリオは、ステージの外へ吹っ飛んでいった。
何もしなかったら落ちるところだが、マリオはステージの端を手で掴み、落ちることはなかった。
「ふぅ、危ない危ない…」
そう、一安心してステージに上がると――
「ふっふーん」
「…あ…」
カービィが、仁王立ちになって立っていた。
…仁王立ちできる体形では無いのだが。
「まっていたよぉぉ!!」
カービィは口を大きく開け、普通に空気を吸い込んだ、ように見えた。
途端、掃除機の如く周りの空気がカービィの口の中へ吸い込まれていく。
初めはマリオも踏ん張ってはいたが、限界が来て、そのまま吸い込まれてしまう。
カービィは、マリオを飲み込んだ。
それは、一瞬の出来事だった。
カービィの頭上から星が飛び出て、マリオへと変化した。
そしてカービィは…
「変身…完了っ!」
赤い帽子を被っていた。しかも、マリオと同じ。
唖然としているマリオに向かって、小さな火の玉を出した。
「…って、俺の技を真似するな!」
我に返ったマリオはその火の玉をかわし、同じように火の玉を出す。
そのまま、しばらくは火の玉合戦が続いた。
出してはかわし、出してはかわすの連続だった。
このままでは埒が明かないと判断したのか、マリオは不意に跳んだ。
そして、カービィに向かって降下しながら――
「…これは真似できないだろっ!」
己の拳を、勢いよくカービィに叩きつける。ジャンプの勢いで威力が倍増されていた。
その威力は、カービィが地に埋め込まれるほどだった。
カービィはすぐに穴から出ようと、必死にもがく。
「よい…しょ!」
そして穴から出るが――
「待ってたぜ!!」
すぐに、手をマリオに掴まれた。
「今までの…お返しだ!!」
自分もろとも、カービィを振り回す。
マリオは自分の目が回る前に手を離し、カービィを宙に浮かせた。
そう…「ジャイアントスイング」だ。
無抵抗に落ちてくるカービィ。
マリオは、カービィが落ちてくる地点の一歩手前まで走る。
そして立ち止まると、何かを溜めるように構えた。
「とどめだぁ!!」
手を前に突き出したその時、大きな炎が出て、爆発するように見えた。
同じファイア掌底でも、炎の出が大きく違った。力を溜め込んでいたからだろう。
カービィはそれを体全体で受け、大きく吹っ飛ぶ。
そして、再び落ちてきた時には――フィギュアになっていた。
この乱闘は、マリオが勝利を収めたのだ。
「いやぁ、やっぱりマリオは強いね!」
カービィはフィギュアから戻っていた。
フィギュアの土台にマリオが触れると、先ほどのように光に包まれ、フィギュアは再びカービィになったのだ。
二人は手を差し出し、互いの手を握った。
そして、スタジアムには凄い歓声が渦巻いた。
――空が暗雲に包まれたのは、その時だった。
--第一話 終--